前回の記事では「ダイレクトレスポンスマーケティングはオワコンか?」という内容でお届けしました。
今回の記事では「経験価値マーケティング」をご紹介します。
近年、「最近の若者は物欲が減った」といった言葉をよく耳にするようになりました。
3年前、このことを象徴するかのようなニュースを見ました。このとき、コロナ禍で苦しむ国民のため、日本政府は特別定額給付金として住民基本台帳に記録されている人に、1人当たり10万円を給付しました。
これ、嬉しかったですね~。
10万円の臨時収入は大きかったです!
さて、この時、多くのテレビニュースでは、街行く人々に「10万円もらったら何に使いますか?」というインタビューをしていましたね。
そのとき印象的だったのは、Z世代と呼ばれる若い人ほど「特にないんですよね」「貯金ですかね」なんていう答えが多かったように記憶しています。
このインタビューVTRを見たコメンテーターが次のようなことを言っていました。
「物心ついたときから身の回りには物が溢れ、おねだりすれば、ほぼ、なんでも買ってくれるような環境で育つと、物欲というものがあまりなくなるのではないか?」
あなたはどう感じますか?
私はそのような環境で育っても、「物欲は無くならないのではないか?」と感じましたので、自分の子供にも同じように「10万円貰ったら何を買う?」と聞いてみました。
すると、「欲しいものは特にないなぁ~、貯金するかな」なんて答えたんですね。
この回答を聞いたとき、
「お~さすが、Z世代!ちゃんと今どきの若者だ!」と妙に感心したのを覚えています。
また、昨年、メジャーリーガーの大谷選手が日本記者クラブ主催の会見で、記者に次のような質問をされました。
「大谷さんは高額所得者ですが、そのお金は何に使いますか?」
これに対し大谷選手は
「自分は物欲がないので消費しないですね。お金はたまる一方です」
このように答えていました。
このときの発言は、まさにZ世代を象徴した言葉として凄く印象的でした。
このように、物があふれかえる昨今、「物を所有したい」という欲求にお金を払う人は、Z世代を中心として徐々に少なくなり、サービスや商品を購入したことで得られる「経験」や「体験」に満足感・価値感を感じる人が増えているそうです。
このような現象を「モノ消費からコト消費」と表現するようになり、この言葉はメディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。
従来のマーケティングでは、商品・サービスの特徴・機能などを訴求し、ライバル他社との差別化を図ってきました。
しかし、「コト消費」へと時代が移り変わることで、従来のマーケティング手法は徐々に通用しない場面が多くなり、新たに注目されているのが「経験価値マーケティング」です。
「経験価値マーケティング」では、顧客体験を通して商品サービスへの付加価値を与え、ライバル他社と差別化を図ります。
このマーケティング概念は、コロンビア・ビジネススクール教授である、バーンド・H.シュミット教授が提唱しました。
しかし、経験価値と言われても、わかるような、わからないような感じですよね。そこで、経験価値を具体的にご紹介します。全部で5つありますよ。
1. SENSE(感覚的経験価値)
視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚の五感に訴えかける方法です。
最近注目されている「カンデオホテルズ」は、まさに、このSENSEを提供しています。
同ホテルは「顧客満足度ランキング」で2回にわたり日本一に選ばれています。
客室は広めの設計で、ベッドは高級ホテル御用達の「シモンズ」。大きな窓の前には「小上がり」と呼ばれるソファが置かれ、リゾート気分も味わえる。
眺めのいいラウンジで食べられる朝食も人気で、従業員が一から作るこだわり豆腐など、手の込んだ数十種類の料理をビュッフェで味わえます。
2. FEEL(情緒的経験価値)
顧客が商品・サービスに対して抱く感覚的・精神的な価値のことです。
顧客が企業の提供する商品・サービスに対して抱いている「イメージ」と言ってもいいでしょう。
Appleを例に挙げると、「おしゃれ」「洗練されている」「スタイリッシュ」などのイメージが情緒的価値にあたります。同社の商品を購入、利用、所有することによって得られる幸福感や優越感、ワクワクする感覚が情緒的価値です。
Appleの代表製品である、iPhoneが登場したころ、日本のとあるメーカーが販売する通信機器の中には、iPhoneと同等の機能を持ち、さらに高機能な物もありました。しかし、Appleが新たに提供した静電容量方式と呼ばれるタッチパネル方式とAppleが持つイメージに日本人の多くは惹かれ、結果、同機能を持つ日本製の機器は生産終了となりました。
3. THINK(創造的・認知的経験価値)
これは、顧客の知的好奇心や創造力を刺激することで生まれる価値です。人間には誰でも未知のものへの好奇心があります。また、クリエイティビティのある方は「創造力」を掻き立てられる経験に大きな価値を感じます。歴史的な逸話を商品特徴と関連付けしたり、知的な感覚が感じられる環境の中に出店するような手法も考えられます。
東京渋谷区の代官山駅から徒歩2分にある、商業施設「代官山T-SITE(ティーサイト)」の2階には、大人な雰囲気かつ、洗練されたお洒落なカフェ「Anjin(アンジン)」があります。このカフェは周りを本に囲まれており、昔の雑誌や海外雑誌、お洒落な本や、アートに浸りながら優雅でゆったりとした時間を過ごすことができます。
4. ACT(身体的な経験価値)
これは、ライフスタイル、食生活、時間活用、アクティビティに訴求することで生まれる価値です。
東京の新宿に「アディダス ブランドコアストア新宿」という店舗があります。このお店では「街をフィールドとして、店舗をスタジアムのバックヤードとして捉え、街でプレーするコンシューマーに刺激を与えていく」というコンセプトで2017年にオープンしました。
「TEST&CREATEフットボール」というサービスでは、シューズを試し履きしながら、蹴ったボールの球速診断やキックターゲットゲームなどが楽しめます。また、ランニング解析ツール「RUN GENIE」を活用した無料シューズ分析サービスなども提供しています。
また、最近流行のヘルスツーリズムなどもこのカテゴリーに含まれるでしょう。ヘルスツーリズムとは、健康の維持・増進・回復を主なテーマとする旅行・観光のことです。
一例としては、温泉で療養をしながら、その地方独自の食材・料理法で調理された食事を味わったり、森林浴を楽しみながらウォーキングしたりヨガを行ったりするようなプログラムがあります。
5. RELATE(準拠集団や文化との関連付け)
顧客が属したいと考えるグループや文化などと結びつけて商品やサービスを訴求することで生まれる価値です。
有名人をブランドのアンバサダーに任命するのもこの例です。
例えば、BVLGARI、DIORなどは、タレントの山下智久さんをアンバサダーに任命しています。
また、ワインメーカーが、ぶどう品種や、世界のワインの状況、そしてテイスティング方法などを学ぶ講座を運営することで、ワインという文化、そしてワイン好きでワインに対する造詣を深めたいという意思を持ったコミュニティーに属しているという満足感を与えることで、最終的なワインの販売につなげていくことができます。
以上、経験価値マーケティングについて、簡単にはなりますがご紹介してきました。
現代人が1日に受け取る情報量は、平安時代の一生分であり、江戸時代の1年分と言われます。
日々、洪水のように情報を浴び、それらの情報に、いつでもどこでもアクセスすることができるこの世の中にあっては、顧客の価値観は急速に変化します。本日は経験価値マーケティングをご紹介しましたが、こんな時代には、あらゆるマーケティング手法の中から自社にあったものを見つけ出し、試行錯誤を繰り返すことが成功への近道なのでしょう。
お読みいただきありがとうございました。