企業の業績を向上させるにはどうしたらいいのでしょうか?
一昔前であれば、すぐに思いつくのは次のようなものでしょうか。
・優秀な営業マンを多く雇用する
・マーケティング・広告部門を強化する
・PR・広報部門を強化する
・販売網を拡充する
・顧客のニーズを徹底的に洗い出し、それに沿った商品・サービスを開発する
列挙された項目はいずれも的外れではないと思います。
しかし、いずれも、それらを行う人間そのもの自体に働きかけるものではありませんね。
営業を行うのは人間です。マーケティング、広告、PR、広報を行うのも人間です(最近では、これらの一部はAIが行っていますが)
また、販売網を拡充し、顧客のニーズを分析し、商品・サービスを開発するのも人間です。
今まで企業の業績を向上させるために、企業が力点を置いていたことの多くは「人間」としての従業員の「気持ち」の部分を蔑ろにしていたように感じます。
従業員を朝早くから夜遅くまで働かせ、過剰なノルマを課し、叱咤し、心理的に追い詰める手法で業績を伸ばしてきた企業はたくさんあります。
こういったことへの反作用はいろいろな問題を生み出しました。
某大手広告代理店では社員の相次ぐ自死が社会問題になりました。また最近では某中古車販売の過剰なノルマ設定が招いた不祥事も大きなニュースとなっています。そして従業員の精神的な疾患(うつ病等)も近年増加の一途をたどっています。
こういった事象が社会問題になるにつれて、「働き方改革」「従業員満足度向上」などに取り組む企業も多く出現しました。
しかし、これらの施策と業績の向上には相関関係を見出すことができないといった研究発表もあり、近年、代わりに注目されるようになったのが「ワークエンゲージメント」という概念です。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとはどのような概念なのでしょうか?
厚生労働省が発表した「令和元年度版労働経済白書」では、ワークエンゲージメントを次のように定義しています。
参考文献URL
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態として定義される。つまり、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態にあるといえる。
この定義を読んでわかるように、ワークエンゲージメントが高い従業員を増やせば、その企業の業績はおのずと向上して行くことが予想されます。
ワークエンゲージメントを高めるにはどうしたらいいのか?
では、ワークエンゲージメントを高めるにはどのようにしたらいいのでしょうか?数多くの方法が提唱されていますが、その中から4つの方法をご紹介します。
1.人事評価制度に公平性と透明性を持たす
当然のことですが、人事評価に「えこひいき」があったり、評価制度に不透明感が強いと、従業員はやる気を失うと同時に会社に対し不信感を抱きます。従業員は自分の仕事が適切に評価されると信頼できるシステムがあることで、安心感を抱き仕事に対するモチベーションが向上します。
2. フィードバックの機会を増やす
フィードバックとは、リーダーが「問題の解決・自身の成長の促進を目的として、取った行動やパフォーマンスの評価を本人に伝えること」を指します。
行動統計学者のJoseph Folkman氏は、雑誌Forbesのコラムに次のようなデータを紹介しています。
「部下に、率直にフィードバックをする能力が下位10%内に入るリーダーの部下のエンゲージメント・スコアは、平均して下位25%に入っている。一方で、率直なフィードバックの能力が上位10%内に入るリーダーの部下のエンゲージメントは、スコアのランキングで、上位23%に入っている」
なかなか面白いデータですね。
リーダーのポジションにある方は頭の隅に置いておいた方がいいデータと言えます。
このことは仕事に限らないと思います。
夫婦でも恋人でも友人でも同僚でも、自分が向上しようと頑張って努力し、行動したことに対し、フィードバックが無い、または少ないと「なんだよ、自分のこと気にしてないのか・・・」ってなりますよね。
3. キャリアパスの提示と支援
キャリアパスとは、企業が従業員に対して提示する、ある職位・職務に到達するまでの道筋を示したものです。基本的には一つの企業の中で働き、成長することを前提としています。
従業員が自分のキャリアパスを明確に理解し、それに向けて進んでいくことで、仕事への熱意や没頭感が高まります。
キャリアパスと似た言葉に「キャリアデザイン」があります。これは、個人が将来のなりたい姿や、ありたい自分を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現していくことを指します。
会社からキャリアパスの提示や支援がないと、自分の頑張りを空しく感じてしまい、燃え尽きてしまう可能性もあります。特にスキルが高い又は上昇志向が強い従業員には重要な項目となりますね。
4. ジョブ・クラフティングを促進する
「ジョブ・クラフティング(Job Crafting)」とは、従業員一人一人が仕事に対する認知や行動を自ら主体的に修正していくことで、「退屈な作業」や「やらされ感」のある仕事を「やりがいのあるもの」へと変容させる手法のことです。
この手法は、会社や上司の指示・命令ではなく、働く人々が自分自身の意思で仕事を再定義し、自分らしさや、新しい視点を取り込んでいくことで、モチベーションが高まり、パフォーマンスの向上につながるという考え方になります。
業績が伸びない会社では、このジョブ・クラフティングの概念が全くと言っていいほどありません。
むしろジョブ・クラフティングとは真逆の状況が日常化していたりします。
このような状況だと従業員は
「まぁ、手抜きって思われないようにやることはやるけど、そんなに一生懸命しなくてもいいよな。どうせ上司が口をはさんでくるんだし」
こんなボヤキを心の中で言いながら働く人が増えてしまいます。
いかがでしたでしょうか?
これからの時代、業績を伸ばす企業は従業員ファーストで、継続的に本気でワークエンゲージメントを高める努力をしていく企業になるのでしょう。
本日の記事は以上です。
お読みいただきありがとうございました。